第12回アカデミー賞(1940年)

会場:アンバサダーホテル
司会:ボブ・ホープ

1940年2月29日、ハリウッドのアンバサダーホテル。第12回アカデミー賞授賞式は、ボブ・ホープの軽妙な司会進行のもと、厳かに幕を開けた。錚々たる映画人が集う会場で、ひときわ注目を集めたのは、マーガレット・ミッチェルの名作を映像化した『風と共に去りぬ』であった。

南北戦争下のアメリカ南部を舞台に、スカーレット・オハラの波乱万丈な人生を描いた本作は、公開当時から世論を席巻。壮大なスケール、豪華な衣装、個性豊かな登場人物たち。それらすべてが観る者を圧倒し、アカデミー賞では作品賞、監督賞(ヴィクター・フレミング)、主演女優賞(ヴィヴィアン・リー)をはじめとする主要8部門に輝いた。ノミネート13部門中、最多受賞という快挙は、まさに高い芸術性を証明するものだった。

そして、この年のアカデミー賞を語る上で忘れてはならないのが、ハティ・マクダニエルの助演女優賞受賞である。アフリカ系アメリカ人として初のオスカー受賞という歴史的偉業は、人種差別が根強く残る当時のアメリカ社会において、今回の受賞は特筆すべき出来事に。これは、映画界における多様性と包容性を促進する、重要な一歩となったと言えるだろう。

作品賞にノミネートされた他の作品も、社会を反映した秀作揃いだった。フランク・キャプラ監督作品『スミス都へ行く』は、政治腐敗に立ち向かう青年の姿を描き、アメリカ社会の暗部を鋭く告発。高い評価を獲得した。

一方、イギリス映画『チップス先生さようなら』は、63年間パブリックスクールで教鞭を執り続けた教師の生涯を丹念に描いた感動作だ。主演男優賞を受賞したロバート・ドーナットの抑制の効いた名演は、観る者の心を強く揺さぶった。

『風と共に去りぬ』の圧倒的な勝利とハティ・マクダニエルの歴史的受賞。第12回アカデミー賞は、映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てた。しかし、世界は第二次世界大戦勃発の危機に瀕しており、映画界といえどもその影響から逃れることはできなかった。

戦争は、映画界に大きな変革を強いる。戦争を題材とした作品やプロパガンダ映画の増加、物資不足や検閲による表現の制限…。しかし、映画製作者たちは逆境に屈することなく、新たな表現方法を模索し続けた。

1940年のアカデミー賞は、戦争という激動の時代を迎える直前のハリウッド黄金時代を象徴する出来事であり、ハティ・マクダニエルの受賞は、映画界の未来を照らす希望の光となったのだ。

作品賞

◎『風と共に去りぬ』
『愛の勝利』
『チップス先生さようなら』
『邂逅』
『スミス都へ行く』
『ニノチカ』
『廿日鼠と人間』
『駅馬車』
『オズの魔法使』
『嵐が丘』

監督賞

◎ヴィクター・フレミング –『風と共に去りぬ』
フランク・キャプラ –『スミス都へ行く』
ジョン・フォード –『駅馬車』
サム・ウッド –『チップス先生さようなら』
ウィリアム・ワイラー –『嵐が丘』

主演男優賞

◎ロバート・ドーナット –『チップス先生さようなら』
クラーク・ゲーブル –『風と共に去りぬ』
ローレンス・オリヴィエ –『嵐が丘』
ミッキー・ルーニー –『青春一座』
ジェームズ・ステュアート –『スミス都へ行く』

主演女優賞

◎ヴィヴィアン・リー –『風と共に去りぬ』
ベティ・デイヴィス –『愛の勝利』
アイリーン・ダン –『邂逅』
グレタ・ガルボ –『ニノチカ』
グリア・ガースン –『チップス先生さようなら』

助演男優賞

◎トーマス・ミッチェル –『駅馬車』
ブライアン・エイハーン –『革命児ファレス』
ハリー・ケリー –『スミス都へ行く』
ブライアン・ドンレヴィ –『ボー・ジェスト』
クロード・レインズ –『スミス都へ行く』

助演女優賞

◎ハティ・マクダニエル –『風と共に去りぬ』
オリヴィア・デ・ハヴィランド –『風と共に去りぬ』
ジェラルディン・フィッツジェラルド –『嵐が丘』
エドナ・メイ・オリヴァー –『モホークの太鼓』
マリア・オースペンスカヤ –『邂逅』

原案賞

◎ルイス・R・フォスター –『スミス都へ行く』
ミルドレッド・クラム、レオ・マッケリー –『邂逅』
フェリックス・ジャクソン –『ママは独身』
レンジェル・メニヘールト –『ニノチカ』
ラマー・トロッティ –『若き日のリンカン』

脚色賞

◎シドニー・ハワード –『風と共に去りぬ』
チャールズ・ブラケット、ウォルター・ライシュ、ビリー・ワイルダー –『ニノチカ』
シドニー・バックマン –『スミス都へ行く』
ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー –『嵐が丘』
エリック・マスクウィッツ、ロバート・C・シェリフ、クローディン・ウェスト –『チップス先生さようなら』

短編実写映画賞(一巻)

◎『Busy Little Bears』– パラマウント映画
『Information Please』– RKO
『Prophet Without Honor』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
『Sword Fishing』– ワーナー・ブラザース

短編実写映画賞(二巻)

◎『Sons of Liberty』– ワーナー・ブラザース
『Drunk Driving』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
『Five Times Five』– RKO

短編アニメ賞

◎『みにくいあひるの子』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKO
『Detouring America』– ワーナー・ブラザース
『動物たちの国づくり』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
『The Pointer』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKO

音楽賞

◎リチャード・ヘイグマン、W・フランク・ハーリング、ジョン・レイポルド、レオ・シューケン –『駅馬車』
フィル・ボーティジュ、アーサー・ラング –『オペレッタの王様』
アーロン・コープランド –『廿日鼠と人間』
ロジャー・イーデンス、ジョージ・ストール –『青春一座』
サイ・フューアー –『She Married a Cop』
ルー・フォーブス –『別離』
エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト –『女王エリザベス』
アルフレッド・ニューマン –『ノートルダムの傴僂男』
アルフレッド・ニューマン –『かれらに音楽を』
チャールズ・プレヴィン –『銀の靴』
ルイス・シルヴァース –『懐しのスワニー』
ディミトリ・ティオムキン –『スミス都へ行く』
ヴィクター・ヤング –『Way Down South』

作曲賞

◎ハーバート・ストサート –『オズの魔法使』
アンソニー・コリンズ –『Nurse Edith Cavell』
アーロン・コープランド –『廿日鼠と人間』
ラド・グラスキン、ルシアン・モラウェック –『The Man in the Iron Mask』
ウェルナー・ジャンセン –『永遠に貴方を』
アルフレッド・ニューマン –『雨ぞ降る』
アルフレッド・ニューマン –『嵐が丘』
マックス・スタイナー –『愛の勝利』
マックス・スタイナー –『風と共に去りぬ』
ヴィクター・ヤング –『ゴールデン・ボーイ』
ヴィクター・ヤング –『ガリヴァー旅行記』
ヴィクター・ヤング –『Man of Conquest』

歌曲賞

◎「Over the Rainbow(『オズの魔法使』)」– ハロルド・アーレン(作曲)、E・Y・ハーバーグ(作詞)
「Faithful Forever(『ガリヴァー旅行記』)」– ラルフ・レインジャー(作曲)、レオ・ロビン(作詞)
「I Poured My Heart Into a Song(『Second Fiddle』)」– アーヴィング・バーリン(作曲・作詞)
「Wishing(『邂逅』)」– バディ・デ・シルヴァ(作曲・作詞)

録音賞

◎ユニバーサル・スタジオ・サウンド部 –『最後の抱擁』
コロンビア・スタジオ・サウンド部 –『スミス都へ行く』
ダンハム・スタジオ・サウンド部 –『チップス先生さようなら』
ハル・ローチ・スタジオ・サウンド部 –『廿日鼠と人間』
MGMサウンド部 –『Balalaika』
パラマウント・スタジオ・サウンド部 –『オペレッタの王様』
リパブリック・ピクチャーズ・サウンド部 –『Man of Conquest』
RKOラジオ・スタジオ・サウンド部 –『ノートルダムの傴僂男』
サミュエル・ゴールドウィン・スタジオ・サウンド部 –『風と共に去りぬ』
20世紀フォックス・スタジオ・サウンド部 –『雨ぞ降る』
ワーナー・ブラザース・サウンド部 –『女王エリザベス』

美術監督賞

◎ライル・ウィーラー –『風と共に去りぬ』
ライオネル・バンクス –『スミス都へ行く』
ジェームズ・バセヴィ –『嵐が丘』
ウィリアムズ・S・ダーリン、ジョージ・ダッドリー –『雨ぞ降る』
ハンス・ドライアー、ロバート・オデル –『ボー・ジェスト』
セドリック・ギボンズ、ウィリアム・A・ホーニング –『オズの魔法使』
アントン・グロット –『女王エリザベス』
チャールズ・D・ホール –『Captain Fury』
ジョン・ヴィクター・マッケイ –『Man of Conquest』
ジャック・オターソン、マーチン・オブジナ –『銀の靴』
ヴァン・ネスト・ポルグレス、アル・ハーマン –『邂逅』
アレクサンダー・トルボフ –『駅馬車』

撮影賞(白黒作品)

◎グレッグ・トーランド –『嵐が丘』
ジョセフ・H・オーガスト –『ガンガ・ディン』
ノーバート・ブロダイン –『Lady of the Tropics』
トニー・ゴーディオ –『革命児ファレス』
バート・グレノン –『駅馬車』
アーサー・C・ミラー –『雨ぞ降る』
ヴィクター・ミルナー –『オペレッタの王様』
グレッグ・トーランド –『別離』
ジョセフ・ヴァレンタイン –『銀の靴』
ジョセフ・ウォーカー –『コンドル』

撮影賞(カラー作品)

◎アーネスト・ホーラー、レイ・レナハン –『風と共に去りぬ』
ジョージ・ペリナル、オスモンド・H・ボーラディル –『四枚の羽根』
ソル・ポリト、W・ハワード・グリーン –『女王エリザベス』
バート・グレノン、レイ・レナハン –『モホークの太鼓』
ハロルド・ロッソン –『オズの魔法使』
ウィリアム・V・スコール、バーナード・ノールズ –『The Mikado』

編集賞

◎ハル・C・カーン、ジェームズ・E・ニューカム –『風と共に去りぬ』
チャールズ・フレンド –『チップス先生さようなら』
アル・クラーク、ジーン・ハヴリック –『スミス都へ行く』
オソー・ラヴァリング、ドロシー・スペンサー –『駅馬車』
バーバラ・マクリーン –『雨ぞ降る』

特殊効果賞

◎E・H・ハンセン、フレッド・サーセン –『雨ぞ降る』
ジョン・R・コスグローヴ、フレッド・アルビン、アーサージョンズ –『風と共に去りぬ』
ロイ・デヴィッドソン、エドウィン・C・ハーン –『コンドル』
ファーシオット・エドアート、ゴードン・ジェニングス、ローレン・ライダー –『大平原』
A・アーノルド・ガレスピー、ダグラス・シアラー –『オズの魔法使』
バイロン・ハスキン、ネイサン・レヴィンソン –『女王エリザベス』
ロイ・シーライト –『Topper Takes a Trip』

アカデミー特別賞

ダグラス・フェアバンクス
映画救済基金
ウィリアム・キャメロン・メンジース
テクニカラー社

アービング・G・タルバーグ賞

デヴィッド・O・セルズニック

アカデミー・ジュブナイル賞

ジュディ・ガーランド -『オズの魔法使』

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