会場:ビルトモア・ホテル
司会:なし
1939年2月23日、第11回アカデミー賞授賞式が開催された。この年は、社会派ドラマから歴史スペクタクル、文芸作品まで、多種多様な名作がノミネートされ、映画芸術の成熟ぶりを世界に知らしめた。
作品賞と監督賞をダブル受賞したのは、フランク・キャプラ監督の『少年の町』だ。少年犯罪とその更生という社会問題に真正面から向き合い、キャプラ監督特有の人道主義的視点とユーモア、そして深い感動を織り交ぜた本作は、激戦を制して見事オスカーの栄誉に輝いた。キャプラ監督はこの作品で3度目の監督賞を受賞し、名匠としての地位を不動のものとした。
主演男優賞は、『少年の町』で少年院の院長を演じたスペンサー・トレイシーが受賞。温厚さと厳格さを併せ持つ複雑な役柄を繊細に演じきり、作品に深みを与えた。主演女優賞は、『黒蘭の女』でイングランド女王エリザベス1世を演じたベティ・デイヴィスが受賞。女王の威厳と孤独、そして内に秘めた情熱を圧倒的な存在感で表現し、観る者を物語の世界へと引き込んだ。
助演男優賞は、『汚れた顔の天使』でギャングのボス役を演じたウォルター・ブレナンが受賞。冷酷非情な悪役でありながら、どこか人間味を感じさせる演技で観客の心を掴んだ。助演女優賞は、『ピグマリオン』でイライザの母親役を演じたフェイ・ベインターが受賞。下町訛りの強い母親をコミカルかつ温かく演じ、作品に人間味あふれる彩りを添えた。
脚本賞は、『ピグマリオン』が受賞。ジョージ・バーナード・ショーの原作戯曲を基に、ウィットに富んだセリフと巧みなストーリー展開で観客を魅了した。また、撮影賞は『アルジェ』が受賞。エキゾチックなアルジェリアのカスバを詩情豊かに捉え、作品の世界観を構築した。美術賞は、『ロビンフッドの冒険』へ。中世イングランドの城や森を忠実に再現し、観客を物語の世界へと誘った。
第11回アカデミー賞は、ハリウッド黄金時代を代表する名作とスターたちが集い、映画芸術の頂点を競い合った。受賞作品・受賞者は、映画史にその名を深く刻み、後世の映画人たちに多大な影響を与え続けている。
しかし、この華やかな授賞式の影には、映画産業の光と影も見え隠れする。スタジオシステム全盛期における製作現場の過酷な労働環境、人種差別や性差別問題、ヘイズ・コードによる表現の自由の制限など、多くの課題を抱えていた時代でもあった。
それでも映画人たちは、映画というメディアを通じて社会に問題提起し、人々に夢と感動を与えるために情熱を注ぎ続けた。第11回アカデミー賞は、そんな彼らの努力と才能が結実した輝かしい瞬間であり、映画の持つ計り知れない可能性を示すものであったと言えるだろう。
作品賞
◎『我が家の楽園』
『ロビンフッドの冒険』
『世紀の楽団』
『少年の町』
『城砦』
『四人の姉妹』
『大いなる幻影』
『黒蘭の女』
『ピグマリオン』
『テスト・パイロット』
監督賞
◎フランク・キャプラ – 『我が家の楽園』
マイケル・カーティス – 『汚れた顔の天使』
マイケル・カーティス – 『四人の姉妹』
ノーマン・タウログ – 『少年の町』
キング・ヴィダー – 『城砦』
主演男優賞
◎スペンサー・トレイシー – 『少年の町』
シャルル・ボワイエ – 『カスバの恋』
ジェームズ・キャグニー – 『汚れた顔の天使』
ロバート・ドーナット – 『城砦』
レスリー・ハワード – 『ピグマリオン』
主演女優賞
◎ベティ・デイヴィス – 『黒蘭の女』
フェイ・ベインター – 『White Banners』
ウェンディ・ヒラー – 『ピグマリオン』
ノーマ・シアラー – 『マリー・アントアネットの生涯』
マーガレット・サラヴァン – 『三人の仲間』
助演男優賞
◎ウォルター・ブレナン – 『Kentucky』
ジョン・ガーフィールド – 『四人の姉妹』
ジーン・ロックハート – 『カスバの恋』
ロバート・モーレイ – 『マリー・アントアネットの生涯』
ベイジル・ラスボーン – 『放浪の王者』
助演女優賞
◎フェイ・ベインター – 『黒蘭の女』
ボーラ・ボンディ – 『Of Human Hearts』
ビリー・バーク – 『Merrily We Live』
スプリング・バイイントン – 『我が家の楽園』
ミリザ・コルジャス – 『グレート・ワルツ』
原案賞
◎エリナー・グリフィン、ドア・シャリー –『少年の町』
アーヴィング・バーリン –『世紀の楽団』
ローランド・ブラウン –『汚れた顔の天使』
フレデリック・コーナー、マルセラ・バーク –『アヴェ・マリア』
ジョン・ハワード・ローソン –『封鎖線』
フランク・ウィード –『テスト・パイロット』
脚色賞
◎ジョージ・バーナード・ショー、イアン・ダルリンプル、セシル・ルイス、W・P・リップスコーム –『ピグマリオン』
レノア・コフィ、ジュリアス・J・エプスタイン –『四人の姉妹』
イアン・ダルリンプ、フランク・ウィード、エリザベス・ヒル –『城砦』
ドア・シャリー、ジョン・ミーハン –『少年の町』
ロバート・リスキン –『我が家の楽園』
短編実写映画賞(一巻)
◎『That Mothers Might Live』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
『The Great Heart』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
『Timber Toppers』– 20世紀フォックス
短編実写映画賞(二巻)
◎『Declaration of Independence』– ワーナー・ブラザース
『Swingtime in the Movies』– ワーナー・ブラザース
『They’re Always Caught』– メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
短編アニメ賞
◎『Ferdinand the Bull』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKOラジオ
『ミッキーの巨人退治』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKOラジオ
『ドナルドの少年団長』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKOラジオ
『わんぱくスパンキー』– フライシャー・スタジオ、パラマウント映画
『Mother Goose Goes Hollywood』– ウォルト・ディズニー・カンパニー、RKOラジオ
音楽賞
◎アルフレッド・ニューマン -『世紀の楽団』
ヴィクター・バラヴァリー -『気儘時代』
サイ・フューアー -『風雲のベンガル』
マーヴィン・ハスレー -『There Goes My Heart』
ボリス・モロス -『セニョリタ』
アルフレッド・ニューマン -『華麗なるミュージカル』
チャールズ・プレヴィン、フランク・スキナー -『アヴェ・マリア』
マックス・スタイナー -『黒蘭の女』
モリス・W・ストロフ、グレゴリー・ストーン -『青春女学生日記』
ハーバート・ストサート -『Sweethearts』
フランツ・ワックスマン -『心の青春』
オリジナル音楽賞
◎エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト -『ロビンフッドの冒険』
ロバート・ラッセル・ベネット -『Pacific Liner』
リチャード・ヘイグマン -『放浪の王者』
マーヴィン・ハスレー -『底抜け極楽大騒動』
ウェルナー・ジャンセン -『封鎖線』
アルフレッド・ニューマン -『牧童と貴婦人』
ルイス・シルヴァース -『スエズ』
ハーバート・ストサート -『マリー・アントアネットの生涯』
フランツ・ワックスマン -『心の青春』
ヴィクター・ヤング -『Army Girl』
ヴィクター・ヤング -『氷上リズム』
歌曲賞
◎「Thanks for the Memory(『百万弗大放送』)」– ラルフ・レインジャー(作曲)、レオ・ロビン(作詞)
「Always and Always(『Mannequin』)」– エドワード・ウォード(作曲)、チェット・フォレスト(作詞)、ボブ・ライト(作詞)
「Change Partners(『気儘時代』)」– アーヴィング・バーリン(作曲・作詞)
「The Cowboy and the Lady(『牧童と貴婦人』)」– ライオネル・ニューマン(作曲)、アーサー・クエンザー(作詞)
「Dust(『西部の星空の下で』)」– ジョニー・マーヴィン(作曲・作詞)
「Jeepers Creepers(『Going Places』)」– ハリー・ウォーレン(作曲)、ジョニー・マーサー(作詞)
「Merrily We Live(『Merrily We Live』)」– フィル・クレイグ(作曲)、ジョニー・クエンザー(作詞)
「A Mist Over the Moon(『The Lady Objects』)」– ベン・オークランド(作曲)、オスカー・ハマースタイン2世(作詞)
「My Own(『年ごろ』)」– ジミー・マクヒュー(作曲)、ハロルド・アダムソン(作詞)
「Now It Can Be Told(『世紀の楽団』)」– アーヴィング・バーリン(作曲・作詞)
美術監督賞
◎カール・J・ウエイル -『ロビンフッドの冒険』
リチャード・デイ -『華麗なるミュージカル』
ハンス・ドライヤー、ジョン・B・グッドマン -『放浪の王者』
セドリック・ギボンズ -『マリー・アントアネットの生涯』
スティーヴン・グーソン、ライオネル・バンクス -『素晴らしき休日』
チャールズ・D・ホール -『Merrily We Live』
バーナード・ヘルッブルン、ボリス・レヴェン -『世紀の楽団』
ジャック・オターソン -『アヴェ・マリア』
ヴァン・ネスト・ポルグラス -『気儘時代』
アレクサンダー・トルボフ -『カスバの恋』
ライル・ウィーラー -『トム・ソーヤ』
撮影賞
◎ジョセフ・ルッテンバーグ -『グレート・ワルツ』
ノーバート・ブロダイン -『Merrily We Live』
ロバート・デ・グラス -『モーガン先生のロマンス』
アーネスト・ホーラー -『黒蘭の女』
ジェームズ・ウォン・ハウ -『カスバの恋』
ペヴァレル・マーレイ -『スエズ』
アーネスト・ミラー、ハリー・ワイルド -『Army Girl』
ヴィクター・ビルナー -『海賊』
レオン・シャムロイ -『心の青春』
ジョセフ・ヴァレンタイン -『アヴェ・マリア』
ジョセフ・ウォーカー -『我が家の楽園』
録音賞
◎ユナイテッド・アーティスツ・サウンド部 -『牧童と貴婦人』
コロンビア・スタジオ・サウンド部 -『我が家の楽園』
ハル・ローチ・スタジオ・サウンド部 -『Merrily We Live』
MGMサウンド部 -『Sweethearts』
パラマウント・スタジオ・サウンド部 -『放浪の王者』
リパブリック・ピクチャーズ・サウンド部 -『Army Girl』
RKOラジオ・スタジオ・サウンド部 -『モーガン先生のロマンス』
20世紀フォックス・スタジオ・サウンド部 -『スエズ』
ユニバーサル・スタジオ・サウンド部 -『年ごろ』
ワーナー・ブラザース・サウンド部 -『四人の姉妹』
編集賞
◎ラルフ・ドーソン -『ロビンフッドの冒険』
バーバラ・マクリーン -『世紀の楽団』
トム・ヘルド -『グレート・ワルツ』
トム・ヘルド -『テスト・パイロット』
ジーン・ハヴリック -『我が家の楽園』
アカデミー名誉賞
ハリー・M・ワーナー
ウォルト・ディズニー
オリヴァー・マーシュ
アレン・デイヴィ
ゴードン・ジェニングス
ジャン・ドメラ
デヴェルー・ジェニングス
アーミン・ロバーツ
アート・スミス
ファーシオット・エドゥアート
ロイヤル・グリッグス
ローレン・ライダー
ハリー・ミルズ
ルイス・H・メセンコップ
ウォルター・オバーセット
J・アーサー・ボール
アービング・G・タルバーグ賞
ハル・B・ウォリス
特別賞
ディアナ・ダービン
ミッキー・ルーニー