第10回アカデミー賞(1938年)

会場:ビルトモア・ホテル
司会:ボブ・バーンズ

1938年3月10日、ロサンゼルスのビルトモア・ホテル。映画産業が技術的にも芸術的にも成熟期を迎えたこの年、第10回アカデミー賞授賞式は、ハリウッド黄金時代を象徴する華やかな夜となった。

作品賞に輝いたのは、ウィリアム・A・ウェルマン監督の『スタア誕生』。スターへの階段を駆け上がる女性と、落ちぶれていく俳優の悲恋を描き、ジャネット・ゲイナーとフレドリック・マーチの迫真の演技も相まって、映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てた。

主演男優賞は、『我は海の子』のスペンサー・トレイシーの手に。漁師の息子として生まれ、逆境を乗り越えて成功を掴む青年の姿を、圧倒的な存在感で体現した。主演女優賞は、『大地』のルイーゼ・ライナーが受賞。ナチスドイツから逃れてきた女性の繊細な心情を、見事に演じ切った。

助演男優賞は、『ケンタッキー』のウォルター・ブレナンが獲得。陽気な老人の役をユーモラスに演じ、作品に人間味あふれる温かみを添えた。また、助演女優賞は、『シカゴ』のアリス・ブラディが受賞。主人公の母親役を情感豊かに演じ、観客の心を鷲掴みにした。

監督賞は、『新婚道中記』のレオ・マッケリーが手にした。ダイナミックな演出で観客を魅了し、作品の世界観を余すところなく表現した手腕が高く評価された。脚本賞は、ジョージ・バーナード・ショーの戯曲を原作とした『ピグマリオン』が受賞。ウィットに富んだセリフと巧みな構成が光る、映画化の成功例として称賛された。

その他、撮影賞は、美しい映像で観客を物語の世界へと誘い、作品の魅力を最大限に引き出した『大地』のカール・フロイントが獲得。美術賞は、『ロスト・ホライズン』のスティーブン・グーソンが受賞。幻想的なセットデザインで、観客を異世界へと誘った。

歌曲賞は、ハリー・オーウェンズの『スウィート・ルロイラ』が受賞。『ワイキキの結婚』で使用されたこの曲は、キャッチーなメロディとロマンティックな歌詞で一世を風靡した。録音賞は、ユニバーサル・スタジオ・サウンド部が獲得。クリアな音響効果で、観客を映画の世界へと没入させた。

第10回アカデミー賞は、映画産業の成長と発展を象徴する歴史的なイベントとなった。受賞作品や受賞者は、その後の映画界に多大な影響を与え、ハリウッド黄金時代を築き上げる礎となったのだ。

しかし、この栄光の陰には、いくつかの課題も存在した。助監督賞とダンス監督賞の廃止は、映画製作におけるこれらの役割の重要性を軽視しているとの批判を招いた。また、人種差別や性差別も依然として根強く、受賞者やノミネート作品にもその影が見え隠れした。

それでも、第10回アカデミー賞は、映画産業の発展と多様性の促進に向けた大きな一歩となったことは間違いない。この年から始まったアカデミー賞の歴史は、映画界の進化と変遷を映し出し、今日の映画文化の形成に大きく貢献している。

作品賞

◎『ゾラの生涯』
『新婚道中記』
『我は海の子』
『デッドエンド』
『大地』
『シカゴ』
『失はれた地平線』
『オーケストラの少女』
『ステージ・ドア』
『スタア誕生』

監督賞

◎レオ・マッケリー –『新婚道中記』
ウィリアム・ディターレ –『ゾラの生涯』
シドニー・フランクリン –『大地』
グレゴリー・ラ・カーヴァ –『ステージ・ドア』
ウィリアム・A・ウェルマン –『スタア誕生』

主演男優賞

◎スペンサー・トレイシー –『我は海の子』
シャルル・ボワイエ –『征服』
フレドリック・マーチ –『スタア誕生』
ロバート・モンゴメリー –『夜は必ず来る』
ポール・ムニ –『ゾラの生涯』

主演女優賞

◎ルイーゼ・ライナー –『大地』
アイリーン・ダン –『新婚道中記』
グレタ・ガルボ –『椿姫』
ジャネット・ゲイナー –『スタア誕生』
バーバラ・スタンウィック –『ステラ・ダラス』

助演男優賞

◎ジョセフ・シルドクラウト –『ゾラの生涯』
ラルフ・ベラミー –『新婚道中記』
トーマス・ミッチェル –『ハリケーン』
H・B・ワーナー –『失はれた地平線』
ローランド・ヤング –『天国漫歩』

助演女優賞

◎アリス・ブラディ –『シカゴ』
アンドレア・リーズ –『ステージ・ドア』
アン・シャーリー –『ステラ・ダラス』
クレア・トレヴァー –『デッドエンド』
メイ・ウィッティ –『夜は必ず来る』

原案賞

◎ウィリアム・A・ウェルマン、ロバート・カーソン『スタア誕生』
ニーヴェン・ブッシュ『シカゴ』
ヘインツ・ヘラルド、ゲザ・ハーゼック『ゾラの生涯』
ハンス・クレイリー『オーケストラの少女』
ロバート・ロード『黒の秘密』

脚色賞

◎ノーマン・ライリー・レイン、ハインツ・ヘラルド、ゲザ・ハーゼック –『ゾラの生涯』
モリー・リスキンド、アンソニー・ヴェイラー –『ステージ・ドア』
ドロシー・パーカー、アラン・キャンベル、ロバート・カーソン –『スタア誕生』
ヴィナ・デルマー –『新婚道中記』
マーク・コネリー、ジョン・リー・メイヒン、デイル・ヴァン・エヴェリー –『我は海の子』

短編映画賞(一巻)

◎『The Private Life of the Gannets』– スキボ・プロダクションズ、エディケーショナル・ピクチャーズ
『A Night at the Movies』– MGM
『Romance of Radium』– ピート・スミス、MGM

短編映画賞(二巻)

◎『Torture Money』– MGM
『Deep South』– RKO
『Should Wives Work?』– RKO

短編映画賞(カラー)

◎『Penny Wisdom』– ピート・スミス、MGM
『The Man Without a Country』– ワーナー・ブラザース
『Popular Science J-7-1』– パラマウント

短編アニメ賞

◎『風車小屋のシンフォニー』– ウォルト・ディズニー、RKO
『Educated Fish』– マックス・フライシャー、パラマウント
『マッチ売りの少女』– チャールズ・ミンツ、コロンビア

作曲賞

◎チャールズ・プレヴィン –『オーケストラの少女』
ディミトリ・ティオムキン –『失はれた地平線』
アルフレッド・ニューマン –『ハリケーン』
C・バカライニコフ、ヴィクター・シャーツィンガー –『キャグニー ハリウッドに行く』
マーヴィン・ハスレー –『宝の山』
ハーバート・ストサート –『君若き頃』
W・フランク・ハーリング、ミラン・ロダー –『海の魂』
ヒューゴ・リーゼンフェルド –『Make a Wish』
アルベルト・コロンボ –『Portia on Trial』
ロイ・ウェッブ –『偽装の女』
アルフレッド・ニューマン –『ゼンダ城の虜』
ルイス・シルヴァース –『シカゴ』
フランク・チャーチル、リー・ハーライン、ポール・J・スミス –『白雪姫』
マックス・スタイナー –『ゾラの生涯』

歌曲賞

◎「Sweet Leilani(『ワイキキの結婚』)」– ハリー・オーウェンス(作詞・作曲)
「Remember Me(『Mr. Dodd Takes the Air』)」– ハリー・ウォーレン(作曲)、アル・デュビン(作詞)
「That Old Feeling(『ファッション・タイム』)」– サミー・フェイン(作曲)、リュー・ブラウン(作詞)
「They Can’t Take That Away(『踊らん哉』)」– ジョージ・ガーシュウィン(作曲)、アイラ・ガーシュウィン(作詞)
「Whispers in the Dark(『画家とモデル』)」– フレデリック・ホランダー(作曲)、レオ・ロビン(作詞)

美術賞

◎ステファン・グーソン –『失はれた地平線』
キャロル・クラーク –『踊る騎士』
ウィリアム・S・ダーリング、デヴィッド・ホール –『軍使』
リチャード・デイ –『デッドエンド』
ハンス・ドレイエ、ローランド・アンダーソン –『海の魂』
セドリック・ギボンズ、ウィリアム・ホーニング –『征服』
アントン・グロット –『ゾラの生涯』
ウィアード・イーネン –『Every Day’s a Holiday』
ジョン・ヴィクター・マッケイ –『Manhattan Merry-Go-Round』
ジャック・オターソン –『スイングの女王』
アレクサンダー・トルボフ –『ファッション・タイム』
ライル・ウィーラー –『ゼンダ城の虜』

撮影賞

◎カール・フロイント –『大地』
グレッグ・トーランド –『デッドエンド』
ジョセフ・ヴァレンタイン –『ホノルル航空隊』

録音賞

◎ユナイテッド・アーティスツ・サウンド部 –『ハリケーン』
コロンビア・スタジオ・サウンド部 –『失はれた地平線』
グランド・ナショナル・スタジオ・サウンド部 –『地下室の饗宴・オペレッタの女王』
ハル・ローチ・スタジオ・サウンド部 –『天国漫歩』
MGMサウンド部 –『君若き頃』
パラマウント・スタジオ・サウンド部 –『新天地』
RKOサウンド部 –『Hitting a New High』
20世紀フォックス・スタジオ・サウンド部 –『シカゴ』
ユニバーサル・スタジオ・サウンド部 –『オーケストラの少女』
ワーナー・ブラザース・サウンド部 –『ゾラの生涯』

編集賞

◎ジーン・ハヴリック、ジーン・ミルフォード –『失はれた地平線』
アル・クラーク –『新婚道中記』
エルモ・ヴェロン –『我は海の子』
バジル・ランゲル –『大地』
バーナード・W・バートン –『オーケストラの少女』

助監督賞

◎ロバート・ウェッブ –『シカゴ』
C・C・コールマン・Jr –『失はれた地平線』
ラス・サンダース –『ゾラの生涯』
エリック・ステイシー –『スタア誕生』
ハル・ウォーカー –『海の魂』

ダンス監督賞

◎ハーミズ・パン –『踊る騎士』
バスビー・バークレー –『Varsity Show』
ボビー・コノリー –『Ready, Willing and Able』
デイヴ・グールド –『マルクス一番乗り』
サミー・リー –『アリババ女の都へ行く』
リロイ・プリンツ –『ワイキキの結婚』

特別賞

マック・セネット
エドガー・バーゲン
近代美術館フィルム・ライブラリー
W・ハワード・グリーン

アーヴィング・G・タールバーグ記念賞

ダリル・F・ザナック

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