第9回アカデミー賞(1937年)

会場:ビルトモア・ホテル
司会:ジョージ・ジェッセル

1937年3月4日、ハリウッドの栄華を象徴するビルトモア・ホテルで、第9回アカデミー賞授賞式が華々しく開催された。この年は、映画界にとって大きな転換期を迎えた年と言えるだろう。サイレント映画からトーキー映画への移行、技術革新による表現方法の多様化、そして助演男優賞・助演女優賞の新設など、まさにハリウッド黄金時代の祝祭となった。

作品賞に輝いたのは、ブロードウェイの興行師フローレンツ・ジーグフェルドの生涯を描いた『巨星ジーグフェルド』。歌とダンス、スペクタクルシーンが惜しみなく盛り込まれ、映画というエンターテインメントの可能性を極限まで追求した作品だ。

監督賞は、『科学者の道』のフランク・キャプラが受賞。庶民の生活を温かく見つめる作風で知られるキャプラは、世界恐慌下のアメリカ国民に希望を与えた。本作では、ノーベル賞受賞の科学者夫婦を通して人間の尊厳と科学の進歩を描き、2度目のオスカーを獲得した。

主演男優賞は、『風雲児アドヴァース』で実在の弁護士を演じたポール・ムニ。徹底的な役作りで知られるムニは、正義のために闘う弁護士を熱演し、観客の心を揺さぶった。

また、主演女優賞の栄冠に輝いたのは、『孔雀夫人』で上流階級の女性を演じたルイーゼ・ライナー。ナチス政権から逃れてきたドイツ出身の彼女は、気品と美しさを兼ね備えた女性を体現し、観客を魅了した。

新設された助演男優賞は『科学者の道』で主人公の恩師を演じたウォルター・ブレナン、助演女優賞は『風雲児アドヴァース』で主人公の母親を演じたゲイル・ソンダーガードが受賞。その演技は作品に深みを与え、主演俳優たちを支えた。

第9回アカデミー賞は、映画芸術の力を改めて示す場となった。技術革新は映画の可能性を広げ、物語の表現は多様化した。映画は人々に夢と希望を与え、社会に影響を与える存在へと進化したのだ。

しかし、この授賞式には人種差別の影も落とされた。『風と共に去りぬ』で助演女優賞を受賞した黒人俳優ハティ・マクダニエルは、人種隔離政策のために別室での参加を余儀なくされた。これは当時のアメリカ社会における人種差別問題を浮き彫りにし、映画界の多様性の欠如を露呈させた。それでも、マクダニエルの受賞は黒人俳優にとって大きな一歩となった。彼女の演技力と存在感は、ハリウッドにおける黒人俳優の地位向上に貢献した。彼女の受賞は、映画界における多様性への道のりを切り開くものであり、その功績は今も語り継がれている。

第9回アカデミー賞は、映画の黄金時代を象徴すると同時に、映画界が抱える課題も浮き彫りにしたが、映画界の可能性を未来へと繋ぐ、重要な一歩になったと言えるだろう。

作品賞

◎『巨星ジーグフェルド』
『風雲児アドヴァース』
『孔雀夫人』
『結婚クーデター』
『オペラハット』
『ロミオとジュリエット』
『桑港』
『科学者の道』
『嵐の三色旗』
『天使の花園』

監督賞

◎フランク・キャプラ –『オペラハット』
グレゴリー・ラ・カーヴァ –『襤褸と宝石』
ロバート・Z・レナード –『巨星ジーグフェルド』
W・S・ヴァン・ダイク –『桑港』
ウィリアム・ワイラー –『孔雀夫人』

主演男優賞

◎ポール・ムニ –『科学者の道』
ゲイリー・クーパー –『オペラハット』
ウォルター・ヒューストン –『孔雀夫人』
ウィリアム・パウエル –『襤褸と宝石』
スペンサー・トレイシー –『桑港』

主演女優賞

◎ルイーゼ・ライナー –『巨星ジーグフェルド』
アイリーン・ダン –『花嫁凱旋』
グラディス・ジョージ –『情熱への反抗』
キャロル・ロンバード –『襤褸と宝石』
ノーマ・シアラー –『ロミオとジュリエット』

助演男優賞

◎ウォルター・ブレナン –『大自然の凱歌』
ミシャ・オウア –『襤褸と宝石』
スチュアート・アーウィン –『フットボール・パレード』
ベイジル・ラスボーン –『ロミオとジュリエット』
エイキム・タミロフ -『将軍暁に死す』

助演女優賞

◎ゲイル・ソンダーガード –『風雲児アドヴァース』
ボーラ・ボンディ –『豪華一代娘』
アリス・ブラディ –『襤褸と宝石』
ボニータ・グランヴィル -『この三人』
マリア・オースペンスカヤ –『孔雀夫人』

原案賞

◎シェリダン・ギブニー、ピエール・コリングス –『科学者の道』
アデール・コマンディニ –『天使の花園』
ロバート・ホプキンス –『桑港』
ノーマン・クラスナー –『激怒』
ウィリアム・アンソニー・マクガイア –『巨星ジーグフェルド』

脚色賞

◎シェリダン・ギブニー、ピエール・コリングス –『科学者の道』
フランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット –『夕陽特急』
エリック・ハッチ、モリー・リスキンド –『襤褸と宝石』
シドニー・ハワード –『孔雀夫人』
ロバート・リスキン –『オペラハット』

短編映画賞(一巻)

◎『Bored of Education』– ハル・ローチ、MGM
『Moscow Moods』– パラマウント
『Wanted – A Master』– ピート・スミス、MGM

短編映画賞(二巻)

◎『The Public Pays』– MGM
『Double or Nothing』– ワーナー・ブラザース
『Dummy Ache』– RKO

短編映画賞(カラー)

◎『Give Me Liberty』– ワーナー・ブラザース
『La Fiesta de Santa Barbara』– Lewis Lewyn、MGM
『Popular Science J-6-2』– パラマウント

短編アニメ賞

◎『田舎のネズミ』– ウォルト・ディズニー、UA
『Old Mill Pond』– ハーマン/アイシング、MGM
『船乗りシンドバッドの冒険』– マックス・フライシャー、パラマウント

作曲賞

◎レオ・F・フォーブステイン、エリック・ウォルフガング・コーンゴールド –『風雲児アドヴァース』
マックス・スタイナー –『進め龍騎兵』
マックス・スタイナー –『沙漠の花園』
ウェルナー・ジャンセン –『将軍暁に死す』
ナサニエル・シルクレット –『目撃者』

歌曲賞

◎「The Way You Look Tonight(『有頂天時代』)」– ジェローム・カーン(作曲)、ドロシー・フィールズ(作詞)
「Did I Remember(『暁の爆撃隊』)」– ウォルター・ドナルドソン(作曲)、ハロルド・アダムソン(作詞)
「I’ve Got You Under My Skin(『踊るアメリカ艦隊』)」– コール・ポーター(作詞・作曲)
「A Melody From the Sky(『丘の一本松』)」– ルイス・アルター(作曲)、シドニー・ミッチェル(作詞)
「Pennies from Heave(『Pennies from Heaven』)」– アーサー・ジョンストン(作曲) – ジョニー・バーク(作詞)
「When Did You Leave Heaven(『Sing, Baby Sing』)」– リチャード・A・ホワイティング(作曲) – ウォルター・ブロック(作詞)

美術監督賞

◎リチャード・デイ –『孔雀夫人』
アルバート・S・ダゴスティーノ、ジャック・オターソン –『鉄人対巨人』
ウィリアム・S・ダーリング –『勝鬨』
ペリー・ファーガソン –『目撃者』
セドリック・ギボンズ、フレデリック・ホープ、エドウィン・B・ウィリス –『ロミオとジュリエット』
セドリック・ギボンズ、エディ今津、エドウィン・B・ウィリス –『巨星ジーグフェルド』

撮影賞

◎トニー・ゴーディオ –『風雲児アドヴァース』
ジョージ・フォルシー –『豪華一代娘』
ヴィクター・ミルナー –『将軍暁に死す』

録音賞

◎MGMサウンド部 –『桑港』
コロンビア・スタジオ・サウンド部 –『オペラハット』
ハル・ローチ・スタジオ・サウンド部 –『General Spanky』
パラマウント・スタジオ・サウンド部 –『テキサス決死隊』
RKOサウンド部 –『世界の歌姫』
20世紀フォックス・スタジオ・サウンド部 –『膝にバンジョー』
ユナイテッド・アーティスツ・サウンド部 –『孔雀夫人』
ユニバーサル・スタジオ・サウンド部 –『天使の花園』
ワーナー・ブラザース・サウンド部 –『進め龍騎兵』

編集賞

◎ラルフ・ドーソン –『風雲児アドヴァース』
エドワード・カーティス –『大自然の凱歌』
ウィリアム・S・グレイ –『巨星ジーグフェルド』
バーバラ・マクリーン –『勝鬨』
コンラッド・A・ネルヴィッヒ –『嵐の三色旗』
オットー・マイヤー –『花嫁凱旋』

助監督賞

◎ジャック・サリヴァン –『進め龍騎兵』
クレム・ビーチャム –『モヒカン族の最後』
ウィリアム・キャノン –『風雲児アドヴァース』
ジョセフ・ニューマン –『桑港』
エリック・G・ステイシー –『沙漠の花園』

ダンス監督賞

◎シーモア・フェリックス –『巨星ジーグフェルド』
バスビー・バークレー –『踊る三十七年』
ボビー・コノリー –『スタアと選手』
デイヴ・グールド –『踊るアメリカ艦隊』
ジャック・ハスケル –『銀盤の女王』
ラッセル・ルイス –『Dancing Pirate』
ハーミズ・パン –『有頂天時代』

特別賞

W・ハワード・グリーン
ハル・ロッソン
『the March of Time』

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