第8回アカデミー賞(1936年)

会場:ビルトモア・ホテル
司会:フランク・キャプラ

1936年3月5日、ロサンゼルスのビルトモア・ホテル。映画産業の成熟を象徴する祝祭、第8回アカデミー賞授賞式が華やかに開催された。この年は、数々の名作が生まれ、映画芸術の可能性を大きく広げた、まさにハリウッド黄金時代の幕開けを告げる年となった。

栄えある作品賞に輝いたのは、フランク・ロイド監督の海洋冒険叙事詩『戦艦バウンティ号の叛乱』。チャールズ・ロートン、クラーク・ゲーブルら豪華キャストの熱演、壮大な海戦シーン、歴史的事実に基づく重厚なドラマが高く評価され、作品賞に加え、監督賞、主演男優賞など主要部門を総なめにした。アカデミー賞史上最多タイとなる11部門ノミネートという快挙は、本作の圧倒的な完成度を物語る。

監督賞は、『男の敵』を手がけた巨匠ジョン・フォードが受賞。西部劇の枠を超え、男たちの友情と葛藤を情感豊かに描き出した手腕は、審査員のみならず観客の心をも掴んだ。フォードはこの後も傑作を連発し、アカデミー賞監督賞を4度受賞するという金字塔を打ち立てることになる。

主演男優賞は、『男の敵』で主人公ギデオンを演じたヴィクター・マクラグレンの手に。寡黙な男の内に秘めた情熱を繊細に表現し、その演技は後世の俳優たちに多大な影響を与えた。

主演女優賞は、『青春の抗議』で反抗的な娘ジョイを体現したベティ・デイヴィスが受賞。感情の起伏を巧みに表現する演技は、本作でも遺憾なく発揮され、ハリウッドを代表する女優としての地位を確固たるものにした。彼女はその後も数々の名作に出演し、2度のアカデミー主演女優賞を受賞するなど、輝かしいキャリアを築いていく。

技術部門では、『真夏の夜の夢』が撮影賞と編集賞を受賞。その他、『男の敵』が脚色賞と原案賞を受賞するなど、多様な作品が栄誉に輝いた。

『戦艦バウンティ号の叛乱』の成功は、スペクタクル映画の可能性を提示し、大作映画製作の道を切り開いた。ジョン・フォード、ベティ・デイヴィスらの活躍は、映画監督や俳優の社会的地位向上に貢献し、映画芸術全体のさらなる発展を促したと言えるだろう。

作品賞

◎『戦艦バウンティ号の叛乱』
『乙女よ嘆くな』
『踊るブロードウェイ』
『海賊ブラッド』
『孤児ダビド物語』
『男の敵』
『噫無情』
『ベンガルの槍騎兵』
『真夏の夜の夢』
『浮かれ姫君』
『人生は四十二から』
『トップ・ハット』

監督賞

◎ジョン・フォード –『男の敵』
ヘンリー・ハサウェイ –『ベンガルの槍騎兵』
フランク・ロイド –『戦艦バウンティ号の叛乱』

主演男優賞

◎ヴィクター・マクラグレン –『男の敵』
クラーク・ゲーブル –『戦艦バウンティ号の叛乱』
チャールズ・ロートン –『戦艦バウンティ号の叛乱』
フランチョット・トーン –『戦艦バウンティ号の叛乱』

主演女優賞

◎ベティ・デイヴィス –『青春の抗議』
エリザベート・ベルクナー -『逃げちゃ嫌よ』
クローデット・コルベール -『白い友情』
キャサリン・ヘプバーン -『乙女よ嘆くな』
ミリアム・ホプキンス – 『虚栄の市』
マール・オベロン –『ダーク・エンジェル』

原案賞

◎ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー –『生きているモレア』
モス・ハート –『踊るブロードウェイ』
ドン・ハートマン、スティーヴン・アヴェリー –『The Gay Deception』

脚色賞

◎ダドリー・ニコルズ –『男の敵』
タルボット・ジェニングス、ジュールス・ファースマン、ケイリー・ウィルソン –『戦艦バウンティ号の叛乱』
ウォルデマー・ヤング、ジョン・L・ボルダーストン、アクメッド・アブデュラ、グローヴァー・ジョーンズ、ウィリアム・スレイヴァンス・マクナット –『ベンガルの槍騎兵』

短編映画賞(コメディ)

◎『How to Sleep』– ジャック・チャートク、MGM
『Oh, My Nerves』– ジュール・ホワイト、コロンビア
『Tit for Tat』– ハル・ローチ、MGM

短編映画賞(ノベルティ)

◎『Wings Over Everest』– ゴーモン・ブリティッシュ、スキボ・プロダクションズ
『Audioscopiks』– ピート・スミス、MGM
『Camera Thrills』– ユニバーサル

短編アニメ賞

◎『三匹の親なし子ねこ』– ウォルト・ディズニー、UA
『The Calico Dragon』– ハーマン/アイシング、MGM
『コック・ロビンは誰が殺した?』– ウォルト・ディズニー、UA

作曲賞

◎マックス・スタイナー –『男の敵』
ハーバート・ストサート –『戦艦バウンティ号の叛乱』
ナット・W・フィンストン –『永遠に愛せよ』

歌曲賞

◎「Lullaby of Broadway(『Gold Diggers of 1935』)」– ハリー・ウォーレン(作曲)、アル・デュビン(作詞)
「Cheek to Cheek(『トップ・ハット』)」– アーヴィング・バーリン(作曲・作詞)
「Lovely to Look At(『ロバータ』)」– ジェローム・カーン(作曲)、ドロシー・フィールズ(作詞)、ジミー・マクヒュー(作詞)

美術監督賞

◎リチャード・デイ –『ダーク・エンジェル』
キャロル・クラーク、ヴァン・ネスト・ポルグレス –『トップ・ハット』
ハンス・ドライアー、ローランド・アンダーソン –『ベンガルの槍騎兵』

撮影賞

◎ハル・ローチ –『真夏の夜の夢』
レイ・ジューン –『バーバリー・コースト』
ヴィクター・ミルナー –『十字軍』
グレッグ・トーランド –『噫無情』

録音賞

◎MGMサウンド部 –『浮かれ姫君』
コロンビア・スタジオ・サウンド部 –『Love Me Forever』
パラマウント・スタジオ・サウンド部 –『ベンガルの槍騎兵』
リパブリック・スタジオ・サウンド部 –『$1,000 a Minute』
RKOサウンド部 –『恋の歌』
20世紀フォックス・スタジオ・サウンド部 –『Thanks a Million』
ユナイテッド・アーティスツ・サウンド部 –『ダーク・エンジェル』
ユニバーサル・スタジオ・サウンド部 –『フランケンシュタインの花嫁』
ワーナー・ブラザース・サウンド部 –『海賊ブラッド』

編集賞

◎ラルフ・ドーソン –『真夏の夜の夢』
マーガレット・ブース –『戦艦バウンティ号の叛乱』
ジョージ・ハイヴリー –『男の敵』
エルスワース・ホーグランド –『ベンガルの槍騎兵』
ロバート・J・カーン –『孤児ダビド物語』
バーバラ・マクリーン –『噫無情』

助監督賞

◎クレム・ビーチャム、ポール・ウイング –『ベンガルの槍騎兵』
ジョセフ・ニューマン –『孤児ダビド物語』
エリック・ステイシー –『噫無情』

ダンス監督賞

◎デイヴ・グールド –『踊るブロードウェイ』『シュヴァリエの巴里っ子』
バスビー・バークレー –『Gold Diggers of 1935』
ボビー・コノリー –『Broadway Hostess』『カジノ・ド・巴里』
サミー・リー –『バークレイの王様』
ハーミズ・パン –『トップ・ハット』
リロイ・プリンツ –『All the King’s Horses』『1936年の大放送』
ベンジャミン・ツェマック –『洞窟の女王』

特別賞

D・W・グリフィス

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